人間の感覚に頼らず、
AI技術を駆使してスランプを予測

Project Story 02

AIを用いたスランプ予測システムの開発

Project Member

I.S

技術開発室
室長

S.O

技術開発室
主任

T.O

営業3部

新事業や新商品の立ち上げを目的に、AI(Artificial Intelligence)、IoT(Internet of Things)を始め、最新技術の開発を推進する技術開発室。2018年、その前身である事業推進室で、AIを用いたスランプ予測システムを開発する、前例のないプロジェクトがスタートした。

CHAPTER 01

生コン工場の自動化・省力化を目指し、
前例のないチャレンジが始まる

2023年4月、ある画期的なシステムが誕生した。その名は「PreSLump AI®」。生コンクリート(以下生コン)製造時の練混ぜ画像をAIが解析し、生コンのスランプ(柔らかさ)をリアルタイムで予測するシステムである。技術開発室のS.Oがプロジェクト発足当時を振り返る。「コンクリートはセメント・砂利・砂・水を練り混ぜて造られます。練り混ぜた直後の固まっていない状態が生コンです。生コンは“流動性”が低い(硬い)と使用する現場でスムーズに流れてくれません。逆に高い(柔い)と強度が不足する恐れがあります。スランプは生コンの流動性を示す値で、建築物、工事現場の種類、施工方法などに適した流動性の指標になります。これまでスランプは、生コン工場の製造工程で、モニタに映し出されるミキサ練混ぜ時の生コンの動きと、ミキサ電力負荷値をオペレータが“目視で確認”しながら管理していました。このオペレータの感覚に基づく判断に頼ることなく、機械的かつ定量的に管理できれば、自動化・省力化が実現します。そこで、コンクリートの製造工程にAI を適用し、スランプを予測できる技術の確立を目指すプロジェクトがスタートしたのです」。パシフィックシステムと太平洋セメント株式会社中央研究所による、共同開発プロジェクトがスタートしたのは2018年9月。生コン業界にDX革命を起こす、前例のないチャレンジが始まった。

CHAPTER 02

膨大な数の画像を確認
試行錯誤のメンバーを他部署も応援

生コン工場で練り混ぜている生コンを撮影し、画像をAIに学習させて、カメラの映像だけでスランプを計測できるようにする。S.Oたちが考えたアイディアは一見シンプルなものだった。しかし、プロジェクトの行く手には、いくつもの壁が待ち受けていた。「ミキサ内を映す監視カメラで生コンを撮影し、支給された映像を録画・解析してAIに学習させました。私たちも動画を使った取り組みはあまり例が無く、試行錯誤の連続でした。AIに学習させるためには、膨大な数の画像が必要です。また、個々の画像のスランプを人間が確認しながらAIに学習させるので、事業推進室(当時)だけでは人手が足りず、他部署に応援を依頼し、ひたすら生コンの画像を見る作業が続きました」とS.Oは語る。AIは学習したデータ量が多ければ多いほど精度が向上する。初めはスランプの測定値が不安定で精度が低く、まったく違う数値を示すこともあったという。開発を進める中で、プロジェクトは新たな局面を迎える。「最初は静止画像(2D)でAIに予測させていたのですが、練り混ぜ工程は動いているので、複数の画像が必要です。そこで時間的な変化の概念を加えた3Dデータを使い、動画で特徴をつかめるように変化させていきました」とS.O。2020年9月、AIスランプ予測システムのプロトタイプが完成し、10月には生コン工場への試験導入・検証が始まった。

CHAPTER 03

事業推進室技術開発室に
製品化に向けたビジネスモデルを構築

2021年4月の組織改定で、事業推進室の新技術・新商品に関する研究開発機能を継承した技術開発室が発足し、I.Sが室長に就任した。「独立した研究開発部門として、センシング技術、AI技術、IoT技術を中心に、新事業や新商品の立ち上げを目的として生まれた部署です。」とI.Sは振り返る。一方、S.Oたちプロジェクトメンバーは、AIスランプ予測システムの精度を磨き上げながら、いよいよ製品化の段階に踏み出していく。「製品化に際して、解決すべき課題は数多くありました。①生コン工場に改造を加えないで導入できること、②製品用にカメラを開発すべきか、既存のカメラを使うべきか、③生コン製造システムとAIスランプ予測システムの連携方法など、導入のハードルを低くし、できるだけ汎用性を持たせるための議論と検証が続きました」とS.O。販売・契約方法についても検討が続く。「本体価格の他、工事費用・メンテナンス費用など、お客様にとって導入しやすく、魅力的な販売方法を模索し、出した結論がサブスクリプションによるサービスでした。月額21万円(導入工事費用別途)でシステムをレンタルし、メンテナンスも行います。さらにAIに継続的に学習させることで、より精度を上げていくサービスを付加し、お客様と末永くお付き合いできるビジネスモデルを構築しました」とS.Oは微笑む。

CHAPTER 04

百聞は一見に如かず、
体験型の営業活動が功を奏す

2023年4月、AIスランプ予測システムは「PreSLump AI®」の名を冠し、市場デビューを果たす。営業3部のT.Oは当時を振り返る。「営業部ではニュースに取り上げてもらえるよう各メディアに働きかけた他、太平洋セメント様の営業部隊と連携して、各取引先を訪問してPRを行いました。月額21万円は決して安い金額ではないので簡単に売れるとは思っていません。また、製造現場にはパソコン操作の苦手な方もいらっしゃいますので、「AIなんてよくわからないから要らない」となる可能性がありました。そこで、製品のプロトタイプを導入していた工場にご協力いただき、早期に導入をご検討いただいたお客様に特別に実製品をお見せする機会をいただきました。実際に動きを見せることで、その価値を理解していただくことを試みました。これが功を奏して、説明にも説得力が増し、販売を軌道に乗せることができました」。「PreSLump AI®」を導入した工場のオペレータから、「数字による客観的な指標として品質管理ができる」、「若手オペレータにスランプ値の感覚を教えやすくなった」など、品質管理のみならず、人材教育にも役立つといった声も届くという。「販売を開始した初年度は目標を超える売り上げを達成。2024年度も目標の数字をクリアできる見通しです」とT.Oは語る。「今後は精度の向上はもちろん、使いやすさや汎用性を高め、導入した日から、すぐに使えるものにしたい」とI.S。さらなる進化を目指し、彼らのチャレンジは続く。

FUTURE

その先の社会貢献と業界の標準規格を目指して、夢を実現していく。

2018年、AIスランプ予測システムの開発プロジェクトがスタートしたとき、AI担当がわずか2名だった事業推進室(現技術開発室)は、現在13名体制となり、AIを活用した、新たな技術開発にも着手している。彼らの夢は、ユーザーにとって使いやすく、人間の負担が減るシステムの開発を通して、社会に貢献すること。そして「PreSLump AI®」を生コン・コンクリート業界の標準規格になる製品にすること。その夢の実現に向かって、彼らは今日も走り続ける。

※PreSLump AI は太平洋セメント㈱の登録商標です

PreSLump AI