PACIFICサイバーセキュリティ研究所

コラム

25年11月号 プロンプト力は現代の文章力:生成AI時代の“伝え方”と”守り方”

著者:PACIFICサイバーセキュリティ研究所 研究員 K.H
公開日:2025年11月27日()
コラムテーマ:生成AIとセキュリティ

ChatGPTやClaude、Geminiなど生成AIは、レポート作成、メール文案、企画書、果ては文章校正まで、あらゆる場面で私たちの仕事を支える存在になりました。誰でも高度なアウトプットを素早く作れる時代──それは同時に、「情報の伝え方」そのものが大きく変わった時代でもあります。しかし、この便利さの裏側で、こう感じる人も多いはずです。「思った答えが返ってこない」「雑な結果になる」「自分でやった方が早いかも」実はこの差を生むのは、AIの性能ではなく“プロンプトの質”、つまり伝え方です。そしてもう一つ、見落とされがちですが非常に重要な視点があります。それは──生成AIを使うには「伝え方」と同じくらい、「守り方」が必要であるということです。生成AIは、人に話すように“空気を読む”ことはできません。入力された情報だけを手がかりに結果をつくります。つまりAIが理解する世界は、あなたの言葉がすべて。だからこそ、「何を伝えるか」「どう伝えるか」「何を伝えてはいけないか」この3つが、AIを使ううえでの“現代の文章力”なのです。

■ 良いプロンプトは、良い質問から生まれる
AIに「要約して」と頼んだとき、満足いく結果が返ってこないのは、AIが悪いのではありません。何のために?誰向けに?どこを重要視して?これが伝わっていないからです。例えば、「社内プレゼン用に、3分で読める形に。数字は残して、背景説明は不要。」こう伝えるだけで、AIは一気に精度を上げます。同じように、生成AIを安全に使うには、情報の“選び方”も問いの一部です。
・この情報はAIに渡してよいか?
・個人情報や機密情報は含まれていないか?
・匿名化できる部分はないか?
AIに投げる前の数秒の確認が、思わぬ情報漏えいを防ぎます。AIを使う上での「問いの設計」は、便利さと安全性の両方に関わるのです。

■ プロンプト力文章力+情報リテラシー
従来、文章力とは「読みやすさ」や「論理の明快さ」を指しました。しかし生成AI時代の文章力は、それだけでは足りません。「AIが理解できるように伝える力」と「AIに渡すべき情報を選び取る力」この2つが揃って初めて、質の高いアウトプットを得られるようになります。
プロンプトには次の4要素が欠かせません。

 1.    目的(何のためにAIを使うのか)
 2.    対象(誰に向けて出力するか)
 3.    トーン(どんな雰囲気・スタイルで伝えるか)
 4.    制約条件(文字数・形式・禁止事項など)

ここにAI時代ならではの視点が加わります。
 5. 入れてよい情報/入れてはいけない情報の線引き

たとえば、
 ・氏名、住所、メールアドレス
 ・社外秘の資料
 ・取引先名や顧客情報
 ・内部の会議記録
こういった情報は、原則そのまま入力すべきではありません。

生成AIを使うことは「第三者に情報を渡すこと」とほぼ同じです。文章力とは、書きたいことを表現する力だけでなく、出すべきでない情報を守る力も含むスキルへと変化しているのです。

■ “考えながら書く力”が、安全なAI利用につながる
プロンプトを作るときは、ただAIに“投げる”のではなく、「自分は何を求めているのか」を整理する時間が不可欠です。これは思考の構造化であり、同時に情報取扱いの整理でもあります。
たとえば、
 ・AIに丸ごと文書を貼る必要があるのか
 ・特定部分だけでも十分なのか
 ・匿名化すれば安全に相談できるのか
 ・そもそもAIに聞くべき内容なのか
この判断を行うだけで、AIの安全性と出力の品質は大きく変わります。

AIは便利ですが、万能ではありません。そして“信頼性の判断”をAIに委ねることはできません。あなたの判断が、安全で正確なアウトプットを決めるのです。

■ AI時代の勝者は、”正しく伝えて、正しく守れる人”
生成AIの普及は、「知識がある人が強い」時代から“意図を伝えられる人”“情報を適切に扱える人”が強い時代へと変わりました。同じツールを使っても、成果物の質はプロンプト次第で驚くほど変わります。そして同じように、安心・安全にAIを使えるかどうかも、入力の選び方次第で大きく変わります。AIを賢く使うとは、AIに思考を丸投げすることではありません。正確に伝え、余計なものは渡さず、自分の考えを整理して使うこと。この姿勢こそが、AI時代の“伝える力”であり“守る力”です。

■ 最後に──あなたのプロンプトは、安全に伝わっていますか?
生成AIは、あなたの言葉をそのまま形にします。曖昧な指示には曖昧な答えが返り、雑な情報管理はリスクにつながります。便利さと注意点は表裏一体です。だからこそ、AIが進化するほど問われるのは、私たち自身の言葉の力と情報リテラシー。プロンプト力とは、現代の文章力であり、同時に情報を守る力でもある。あなたの一言が、AIの出力だけでなく、安全性までも決めるのです。

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